バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

81 戦況は

降り降ろされた一撃を、ルソーは両手に持った包丁で受け止めた
しかし、その重さ故に飛びのかざるを得なかった
兵器を扱うグループの当主だ。あっさりと倒れてくれる相手ではないことは明白であった
手のひらに力が入らず、包丁を取り落としそうになるのを懸命にこらえるルソー
その目はまっすぐ当主をにらんでいた

「そんなにぼろぼろになってまで、まだ諦めるつもりないわけ?」
当主があざ笑う。ルソーは「黙れ」と小声で返す
「早く諦めて楽になっちまえよ!」
当主が剣を横にふるう。包丁で受け止めたものの、大きく横に弾き飛ばされた
その勢いで包丁を取り落とし、ルソーはうずくまる

(こんなところで、こんなところで……!)
込みあげる悔しさに、ルソーは唇を噛む
「一緒に来たお前の仲間も、今頃どうしてるかねぇ」
そこに追い打ちをかけるように当主は言った



風がエントランス中で吹き荒れる
次々と警備員をいなしていくヤヨイだったが、体力も残りわずかとなっていた
対するカルミアの警備員は際限なく駆け寄ってくる
「もう、無理かも……。ごめんね、ルソー君」
もう何度目になるかもわからないその言葉をつぶやき、それでもヤヨイは風を起こした



「きっもちわりぃな、こいつ!」
アイラが引き気味に声を上げる
たった今首を折ったはずの化け物が、その場で再生されていくのだ
「草香、何かわからねぇのか!」
「今解析しています。もっとも、専念はできておりませんが」
草香はそう言いながら右腕をまっすぐ伸ばし、弾を撃ち出してけん制していた
それを見ながら『猿回し』はにやにやと笑っていた
「無駄無駄ぁ。早く餌になっちまいな……」



「……姉さんが」
ルソーは口を動かした
「姉さんが、待ってるんです。負けるわけには、いかない」