バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

困惑と団結

梅ヶ枝の姿は異様なものだった
腹部の布地が裂け、右肩に大きな傷を負っており、右腕は思うように動かないようだった
「おい、梅ヶ枝!」
追いついた柿本が声をかける。梅ヶ枝はぐるりとそちらを振り向いた
いつもの懇切丁寧な仕草はどこにも見受けられない
その目は嫌なほど赤く染まっていた

「やべぇ、ガチもんじゃねぇかよ……」
梨沢は呟いた。両腕に盾を召喚し、構える
梅ヶ枝は左腕をまっすぐに伸ばし、梨沢達に照準を合わせる
瞬間、梅ヶ枝の輪郭がぶれだした
「来るぞ、柿本!」

一瞬
ほんの一瞬である程度あったはずの距離が一気に詰められた
梅ヶ枝はその勢いで左手の爪を振り下ろす
梨沢は柿本をかばい、盾でその攻撃を防いだ
「重っ……!」
反射的に出てきたその言葉が、彼の力を証明する
梨沢は盾を突き出し、梅ヶ枝を放った

「柿本、いけるか!」
梨沢の声に、柿本はやや渋る
「俺に、梅ヶ枝がやれるのか……?」
「馬鹿! 渋ってんじゃねぇよ! あいつは今、いつもの梅ヶ枝じゃねぇ!」
「そうは言ってもよ!」

「危ない!」
再び襲い来る梅ヶ枝の斬撃を、梨沢が受け止める
「いいか、こいつ気絶させて、鬼才さんの薬飲ませるか病院に担ぎ込まなきゃどうにもならねぇんだぞ!」
「そうは言っても俺じゃ、俺の力じゃ……」

瞬間視界が霞みだした
突然の事態にわずかにうろたえる梨沢と柿本の襟首が引っ張られ、濃い霧の中には梅が枝が取り残された
「間に合ってよかったわ!」
真苅の声。視線を上げると、異探偵の面子と鬼才が全員そろっていた

「梅ヶ枝さんがマインドアウトするなんて、まずい事態になったね」
冷静に栗原は言う。突如現れた局所的な霧は、彼によりもたらされたものだった
「鬼才さん、なんとかならねぇか!」
「残念ながら、僕が戦線に出るわけにはいかないんだよね。間違って負傷して、梅ヶ枝君に薬の投与ができなくなるのは困るからさ」

「どないすんねん。残ったメンバーで一番強いの、梅ヶ枝やで」
焦り気味に真苅は言った。焦っているのはメンバー一同、同じであった
ただ一人を除いて

「……あの」
小さな声で、林檎は言った
「もしかしたら、どうにか、なる」
「マジで言ってるのかよ、林檎!?」
「梅ヶ枝さん、強い。だから、皆、頑張る。そしたら、きっと」

林檎の言葉に、全員は顔を見合わせた
「そうだね。皆で力を合わせないと」
「俺たちでできることをやろう。林檎がその案を練ってくれているからな」
「せや。後ろ向きになる必要はあらへん。やったるわ!」

全員が結束する中、梨沢は林檎の頭を撫でた
「ありがとうな」
林檎は意図を察せず、首を傾げた