バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

彼のために

梅ヶ枝は周囲を見回していた
四方を霧で囲まれ、迂闊に動けなくなっていたのだ
右肩の傷は治癒補正である程度治っており、多少無理をすれば動かせるところまできていた

不意に風を切る音が耳に届き、梅ヶ枝は素早く飛び退く
カカカッと音が響きながら、先ほどまでいた所にカードが数枚突き刺さった
近くに敵の存在を認識し、更に周囲を見回す梅ヶ枝
そして、また別の方向からカードが放たれた



「本当に大丈夫なのかなぁ…」
栗原が気弱な声をあげる。彼は今、また別の人格に体を預けていた
梅ヶ枝が動くのにあわせて霧を調整していく

「おや? まさか林檎君の戦闘センスを見くびってる訳じゃないよね?」
やや挑発的に言う鬼才に、栗原は両手を振った
「そそそ、そんなことないですよ。でも、不安にもなるじゃないですか…」
「大丈夫。皆がやってくれるさ。信じよう」
鬼才の言葉に、栗原は震えながらも頷いた



途切れることのない霧の中を梅ヶ枝は走っていた
時折飛んでくるカードをかわし、そちらに向けて瞬間的に跳ぶが誰もいない
それを繰り返しているうちに、梅ヶ枝も疲れ始めていた

次の一手を考えてる最中、梅ヶ枝はあるものに気がついた
それは、霧の中に浮かぶ光
とても小さく点滅しているが、距離はさほど遠くはなさそうだった
梅ヶ枝は何かあると悟り、そちらに跳ぼうとした


「!?」
その道中で何かに阻まれた
霧の中に紛れていたそれは、透明な大盾
そう、梨沢がそこにいたのだ

「……わりぃ、梅ヶ枝」
梨沢はそういうと、空いていた盾を突き上げ、梅ヶ枝の顎を殴った
梅ヶ枝の体は大きく跳ね上げられ、地面に倒れ伏した
気絶したのは、明白だった