バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

3 制圧

街灯で照らされた街は、すでに多くの人であふれかえっていた
政府機関への不満が募った結果である
「落ち着いてください! 静かにしてください!」
警官はメガホンをとって叫ぶが、それも殆どの者が聞いていない
新人と思しき警察官は、メガホンを持ったまま狼狽えていた

その肩を突如、誰かが叩いた
振り返ろうとする警官に、前を向けと指で指示し、メガホンを持つ手をそっと包むように握った
警官は現れた片手が要求するままにマイクを渡すと、メガホンを口に近づけた
瞬間、

「『止まれ』」
ピタリ
それまでの喧騒が嘘のように静まり返った
人々が困惑する。前列の人々がそろって硬直してしまったのだ

「『飛べ』」
次いでもう一声。今度はその場に強風が起こり、何人かが吹き飛ばされた
高く遠くに飛ばされた人が次々と地面に落ちていく

何があった。一同が騒然とし、その注目はメガホンを握った警官に向けられた
「ひっ……!」
悲鳴じみた声を上げようとする警官の口を、さらにもう一つの手が遮った
舞台に立つ者が悲鳴など上げてはならない
そう諭すように
警官は泣きそうになるのをこらえながら、メガホンを握り、前を向いた

中腹から人々を分け入り、バットを振りかざす集団が現れた
幾重もの手がメガホンをそちらに向けさせ、声を上げた

「『潰れろ』!」
メキリ、メキメキ
そんな耳障りな音を立てバットが捻じ曲がる
そうして警官のもつメガホンは最後に叫んだ

「『逝け』!」
強い風、襲い来る圧力。前方でもろにその「声」を受けた集団は気を失い、暴動は沈静化したのであった



事務所に戻った似長一行は、飲み物だけのささやかな打ち上げを開いていた
「お疲れさま! 今日も皆かっこよかったよ!」
「いや、あれだけの暴徒を沈静化できたのは、警察官の皆様の協力があってですよ」
紫苑の抑えきれない興奮を、清光は冷静に受け止める

「それにしても、今月に入ってもう三度目の暴動よね。よからぬものが動いてなければいいのだけど」
「確かにここ最近の政治や経済に納得できてないやつが多いんだろうよ。それは、「俺たちが一番知っている」ことじゃねぇか」
道男がソファにどっかりと座りながら言った
瞬間、どんよりとしたものが全員の肩にのしかかる

「まぁ、俺たちがこうして『執行人』してるのも、神の思し召しだと思えばいいんじゃねぇの」
絞り出すように似長は言った
「神の思し召し以外に、何があるというのかね」
雷堂は付け加えた