バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

10 注意喚起

病院のベッドに腰かけた清光が頭を下げる
「ご心配をおかけしました。僕はこのとおり、なんともないので」
「いや、なんともないことはないだろ」
清光は肩に怪我を負い、包帯で止血されている。腕もあまり動かさないほうがいいとは医者の提案だ

「何があったんだよ、清光」
「いえ、大して語ることでもありませんので」
視線を落とす清光
似長は彼のそばに行くと、腰をおとして清光の目線に合わせた
「そうやって黙ってたら、何もできないだろ。些細なことでいいんだ、教えてくれ」
「……そう、ですね。また誰かが被害にあってはいけない」

「レストランを出て暫く歩いていた時に、指名手配犯を見つけたんです」
相変わらず視線をおとす清光
帽子は今手元になく、やや伸びた赤い髪が揺れる
「その姿を追うのに必死になってしまい、後ろからの気配に気づけませんでした」

「後ろ? ってことは、その怪我は指名手配犯じゃなくて」
「後ろの人物から襲われた時にやられました。迂闊でしたよ、我ながら」
似長の声に清光は返し、自嘲するように息を吐いた

「特徴とかつかんでないの? その、後ろの人、だっけ」
紫苑の質問に清光は首を振った
「残念ながら、態勢を立て直して視線を上げたころには逃亡してましてね。情報はさっぱりですよ」
「ふーむ。確かに清光君らしくもない」
顎に手をあてる雷堂に、すみません、と清光は返した

「とにかく、話したからには気を付けていただきたいのです。犯人の特徴は捉え損ねましたが、今後同じ事件があってもおかしくない」
「清光君は肩の怪我、はやく治してね」
紫苑の心配そうな声に、清光は頷いた

「よーし、今後は日常的に注意していこうぜ」
似長が手を叩いて呼びかけた
清光も立ち上がり、赤い髪の一行が病院を去っていった