バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

9 急変した日常

「なぁに? それで清光君に怒られて、へこんでるの?」
夢宙が似長をつつきながら言う
清光に帰られた似長はやることがなくなり、料理を平らげて事務所へ戻った
しかし、清光はまだ帰っていないという
事務所にはくつろぐ雷堂とお茶を淹れていた夢宙しかおらず、仕方なしにソファについた次第である

「何かつかめたかね、似長君」
雷堂は挑発的に笑いながら似長を見る
似長はそれに首を振って返した
「ぜーんぜん。「愛」がどうとかしか言ってなかった気がする」

「あら、そんな話をしてくれるなんて、清光君も優しいところあるじゃない」
「どこがだよ。俺にはさっぱりだ」
夢宙の出してくれたお茶を一口すすり、似長は宙に視線を投げた
「そんなこと言ったら俺も「昔の昔」に「愛」なんて微塵も感じた事ねぇし」

「皆、最初はそう言うんですよねぇ……」
くつくつと笑う雷堂に、似長はやや不満げに返す
「皆? おい、それってどういう……」

「皆!」
その時、バンと大きな音を立てて扉が開かれた
紫苑が息を切らしながらそこに立っていた
「紫苑、どうしたんだ」
「大変なの、清光君が、怪我してて!」

すぐさまジャケットを羽織って三人は紫苑に連れられ外に出る
どうやら、道男と一緒に買い出しに出ていた紫苑は、路地裏で怪我をした清光に遭遇したらしい
通報した上で道男に清光を任せ、紫苑が事務所にかけてきたという

「清光の容態はどうなんだ」
「肩が血まみれだったの! 腕もうまく動かせないみたいで……」
「どうしたんだよ、怪我なんて清光らしくもねぇ」
チッと舌打ちを一つし、似長は走った

「清光!」
似長が声を上げる
そこにいた道男が振り向いた
彼を挟んだ道の先で、清光が救急車に運ばれていった