バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

12 偽物の存在

「ふーむ……」
似長と紫苑が事務所に帰ると、残りのメンバーが机とにらめっこをしていた
「ただいまー。何してんの?」
「あら、お帰り似長、紫苑」
「いやぁ、ちょっと不都合が起こっててな」
「不都合?」

「これを」
雷堂が示したタブレットを二人はのぞき込む
「ここ数日で起こった傷害事件の頒布地図だよ」
「おいおい、それにしちゃマークが多すぎるだろ」
似長の言う通り、地図のいたるところに赤いマークが散らばっている

「問題は」
雷堂がタブレットをタップすると、その一部が黄色にちかちかと輝きだした
「この黄色い箇所。ここでどうやら『執行人による犯罪』が行われているようなんだ」
「『執行人』が……!?」

「ちょっとまって、私たちは何もやってないよ!」
「そう。だから最初はまだ自覚のない『執行人』による犯行だと思ったし、現にそういう犯罪もいくらか起こってるだろう。けれども、最近妙な噂を聞くようになってね」
雷堂は調子を変えずに言った

「『執行人の偽物』がいるっていう、噂をね」

「おいおい、そんなことあり得るのかよ」
似長はおどけて言う。しかし、冷や汗が頬を伝う
「確かに『執行人』は能力者の中では更に特別なものだ。簡単にまねることはできないが、不可能ではない」
「だから皆でどうしようか話し合ってたのよ。これから先、偽物による犯行を減らしていかなきゃいけないから」

「偽物を減らすことは人民のためでもあり、俺たちのためでもあるんだ。妙な恨みを買って、怪我をしないようにな」
道男のその言葉に、紫苑が反応した
「そう! それがね、さっき似長さんと一緒にいたとき、襲われそうになったの!」
「何だと!」

「白熱しているところ申し訳ありませんが」
水を差すように、清光が言った
「情報を整理する必要があるみたいですね。どうせ僕は外に出られない分暇になります。任せていただけませんでしょうか」
「いいのか、清光?」
「僕はこの力と頭を駆使するだけの存在ですから」

「あのなぁ、清光……」
言い淀む似長を横目に、清光は立ち上がった
「ちょっと一人にさせてください」
清光はそう言って部屋を出て行った