バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

13 面影

「つき合わせて申し訳ありません、似長さん」
「いいんだよ。どうせその怪我じゃ荷物も持てなかっただろ?」
買い出しからの帰り道、似長は大荷物を抱え、清光に付き添っていた
ギプスを首から下げる清光の姿は痛々しかった

「雷堂さんと話したそうですね、「昔の昔」のこと」
「ああ。肯定するわけじゃないが、俺も「愛」を感じたことがない」
「やはり、僕の考えは間違っていたようですね」
清光はため息を一つ吐いた
「僕たちが愛されるわけないじゃないですか。だって――」

「……「キヨミツ」?」
その時、後ろから声が聞こえ、似長と清光は振り返った
そこには一人の女性が立っていた
やせ衰え、髪も整っておらず、見るからにみすぼらしい女性だ

「ねぇ、キヨミツでしょ、貴方……」
女性はよろよろとこちらに寄って来る
そうして彼女は、清光の肩に手をまわした
「どこに行ってたの……? 会いたかったのよ……」

「……違う」
「清光?」
似長は清光が震えていることに気が付いた
いつも冷静な清光が取り乱しているのは初めて見る
「僕は「セイコウ」だ。「キヨミツ」じゃない」
清光はそう言うと、女性を振り払い似長の腕をつかんで走り出した
落としてしまった荷物など目もくれず、彼は一目散に逃げていった

「……」
女性はただ、そこにぼんやりと佇んでいた