バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

17 噂と真

「ふむ、そうして突然彼に襲われたと」
雷堂は顎に手をあてて言う
似長の視線は、ソファの上に寝かされている男、もとい、先ほど襲ってきた男に注がれていた
「俺も突然のことで何が何だかわかんなかった。けど、盲目的で必死なのは伝わってきたんだ」

「……あら、その人」
似長の前にお茶を置いた夢宙は、男に気づいて声を上げた
「見たことあるのか、夢宙」
「ええ。このあたりで宗教の勧誘をしてる人でしょ? ここにも何度か来たもの」
「はぁ!?」

「大丈夫だったかよ! その、怪我とか」
「何よ、今更な話でしょ? それに、彼、この辺で活動してるみたいだけど親切だってなかなか好評なのよ」
のんびり答える夢宙に、焦り気味だった似長の間が抜ける
「お前なぁ……」

「それなら会話程度ならできそうだね。彼は何か我々に誤解をしているようだし、一度話してみるのもありだろう」
「おいおい、仮にも俺たちを襲おうとした奴だぜ? 何を考えてるかも分からないし、会話は危険なんじゃ」
「そうはいってもねぇ」
雷堂は男に視線を落とした

「もう、目覚めてるんじゃないのかい、君」

「……!」
似長は拳銃をとろうとするが、夢宙にひょいと取り上げられてしまった
「会話に拳銃はいらないでしょ」

「……ははっ、お見通しだったってわけか」
ソファに転がってた男は息を吐くように笑い、姿勢を起こした
「いいの? 僕は君たちを殺したいほど憎んでるんだよ。そんな人と対等に会話できるとおもってるの?」
「思ってるからそうして自由にしてるんだよ。まぁ、何かあれば似長君が何とかしてくれるだろうし」
「俺かよ!」

「嫌味な性格をしているとは自負しているけど、会話相手を縛るほど私は弱いやつではないからね」
まぁ、そのかわり、と雷堂は思い出したように付け加えた
「ナイフだけは取り上げさせてもらったよ。ついでに全部施錠もしてるし、今は夜中だ。賢いであろう君なら、無駄な抵抗はしないだろうけどね」