バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

23 張り合い

美紗をひるませすぐに脱出しようと拳銃を構える似長
しかし美紗はひらりと上空を跳び、唯一の通路を塞ぐように立った
「あの、また今度にできないかしら。今は仕事中で、このままだと貴方、訴えられるわよ?」
夢宙はあくまで平静を装い、朝希を促す。しかし彼は首を振った
「その心配はないね。ここに犯罪者がいると通報したのは私なのだから」
完全に上手を取られていたことを知り、似長は唇を噛む

「手荒な真似はするつもりはありません。どうか、ご主人様の相談に乗ってあげていただけませんか」
前方で美紗が言う
似長は首を振り、拳銃を向けた
「似長」
「わかってる。撃つなって言うんだろ。俺たちは実質まだ被害を」
「違うわ。逆よ」
「は?」

「こんな夜更けに女の子一人だけ連れて歩けるほうがおかしいと思うの。彼女、なにかある」
夢宙は美紗を見ながら言った
似長はその声におもむろに頷くと、拳銃の狙いを定めた
その時だった

「『変われ』」
美紗が呟いた。途端に、彼女の輪郭が崩れだす
そうして彼女のいたところには、一匹の白猫が佇むだけになった
「なっ……!」
白猫は素早く似長に襲い掛かろうとした
しかし

「『飛べ』!」
夢宙のその声と共に周囲に風が吹き渡った
猫はあっけなく高く飛ばされ、外壁にしたたかに打ち付けられた
「ミーシャ!」
朝希は猫のもとへ駆け寄る

「おい、今の見たかよ」
似長の張りつめた声に、夢宙は頷く
「ええ、今の、『執行人』のやりかたに近かったわよね……」
「いくらか相違点はあるが、間違いなさそうだな……」
似長は朝希を見やる
朝希は猫を抱きかかえ、その場を去ろうとした
しかし

「『壊れろ』」
どこかから響いた声
瞬間、入り口近くに立っていた街灯が根元から折れ、倒れこみ、道を塞いでしまった
「怪我はないかね、二人とも」
砂煙を割いて現れたのは、雷堂であった

朝希は突然の出来事に驚くどころか、目を輝かせた
「朝希君、といったね」
雷堂はゆっくりと朝希に近づいた
「どうやら君は私たちのことを知ったうえで追求しようとしているようだ。本来ならば戒めなければならないが、こちらも聞きたいことがある。似長君、彼を事務所まで案内してくれないか」
「え、いいのかよ、そんなことして!」
「どうにも私には、彼は悪い人には見えないのだよ」
そういって、雷堂は朝希に手を差し伸べた