バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

飾る言葉

「よう」
聞き覚えのあるその声をきき、梨沢は振り向いた
やや背の低いその人、大黒屋は微笑んで片腕をあげた
「久し振りだな、梨沢」

近場のカフェで紅茶を一口すすり、梨沢はぼんやりと大黒屋をみつめた
「あんた、まだ無事だったんだな」
「こっちの台詞だよ。それに、梅ヶ枝から聞いたぜ、あのチーム『ヘテロ』に入ったって。いよいよ物理の天才が異探偵に本格参入か?」
「……否定はしない」

「それで、最近どうよ、その「闇」の調子は」
本来梨沢は触れたくもない話題だが、大黒屋はあえて単刀直入に訊いた
梨沢は顔をしかめる
「……大して変わらねぇよ。それどころか最近、使ってすらいない」
「そりゃよかった」
大黒屋は再び微笑み、紅茶を飲んだ

「俺からすればお前も充分「異端」だ。闇の介入なしに「もうひとつの闇」を使うことは、かなりリスキーだからな。いつそれに呑まれてもおかしくない。気を付けろ」
「その言葉、そのまま返すぜ。あんたは一種の人格として闇を備え付けている。闇華っつったか。そいつに主導権、握られんじゃねぇぞ」
互いににらみ合いながら言うだけ言い、やがて互いににっと笑った

「暫くこの近辺に滞在する予定だ。こんどは異探偵全員呼んで来いよ。一緒に飯食おうぜ」
別れ際、大黒屋はそう言って立ち去った
自分の状態を知る者との会話は、心の内を明かせるようで、梨沢はほんわかとした安心感に包まれていた
そして、事務所に向かって歩きだした