バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

力試し

「いいですね、梨沢様、柿本様」
「いつでもいいぜ!」
「ったく、めんどくさいけど仕方ねぇか」
ぽんぽんとかるく跳ねる柿本を見ながら、梨沢は盾を構えた



事の発端は柿本だった
「なー、誰でもいいからちょっと体動かすの付き合ってくれねー? 最近全然バトってないから体なまっててさー」
ソファーにだらしなく座る柿本の頭を、梅ヶ枝がかるくたたく
「姿勢を正してくださいませ。今依頼人に来られたら困るでしょう」
「はーい」

「んで、なんや、柿本。体がなまっとるならその辺で走り込みでもええやろ」
「もしくはどこかのチームに合流してルイウ退治でもしてこれば」
「あーん、皆が意地悪言うー」
柿本はそばに座っていた林檎に抱き着いた
状況を理解できていないのか、林檎は首をかしげて柿本を見る

「……では、こういう時は」
梅ヶ枝は個室の扉をたたいた
「梨沢様、今、お時間よろしいでしょうか」
「あー? かまわねぇけど、どうした?」



「返事なんてするんじゃなかったぜ」
ぶつぶつと呟く梨沢を横目に見ながら、梅ヶ枝は手を上げた
「それでは、両者構えて」
梨沢と柿本の視線がぶつかる
それを確認し、梅ヶ枝は腕を振り下ろした
「はじめ!」

先に動いたのは柿本だった
軽い調子で地面を蹴ると、常人にはあり得ない高さにまで飛び上がった
「いくぞ、梨沢!」
彼女は空中でくるりと回ると、すごい勢いで落ちてきた

高い音を立てて梨沢の盾と柿本の双剣がぶつかり合う
梨沢はその威力に数歩後ずさりするが、拮抗の末に柿本をはじき飛ばした
距離をとろうとする柿本を追い、梨沢は盾を横にふるう
それを見逃さなかった柿本は素早く背をそらし、盾をかわした

「梨沢様、加減はしていますでしょうね」
「たりめぇだろ。柿本に怪我されたらこっちが困るんだ」
目線を合わせることなく梅ヶ枝と梨沢は言葉をかわす
それを見た柿本はむっとした顔で梨沢を見た
「上級者の余裕か? 悪かったな、手ごたえがなくて!」

柿本は再び蹴りだした
梨沢は手前に盾を構える
すごい勢いで斬撃を繰り返す柿本だったが、その滅茶苦茶なペース配分に息があがりだしていた
もちろん、そのことを梨沢は理解していた

柿本の手が緩んだ
左手に握っていた剣が滑り落ちる
「やべっ……!」
柿本が言いきる前に、梨沢は反対の手に持っていた盾を突き下ろした
いとも簡単に吹き飛ぶ柿本。バランスをたてなおして着地したが、剣を片方手放してしまった

「さぁ、どうする、柿本」
梨沢は盾を構えたまま言った
柿本はリズムを刻むようにかるく跳ねる
「……梨沢、盾を構えておけ」
柿本はにやりと笑った

次の瞬間、柿本は一気に梨沢との間を詰め、前方に構えてた盾を蹴り飛ばした
「……!?」
今度は梨沢の方が飛ばされる。その間に柿本は剣を拾い上げ、梨沢に向かって蹴りだした
「止めだ!」

「何が「止め」、だって?」
梨沢は着地すると、盾全体を使って柿本にぶつかった
想定外の動きの速さについていくことができず、柿本はよろける
そして、その柿本ののど元に梨沢は盾を突き下ろし、寸止めした

「あー! 負けた!完敗だ!」
柿本は、しかし楽しそうに笑いながら地面に倒れた
「お前は相変わらず体力の使い方、考えてないよな」
「まぁな。だけど、自由にやるってのが俺流だし」
にひひ、と笑う柿本を見ながら、梨沢はため息を吐いた

「……失礼、梨沢様、柿本様。」
そこに、審判をしていた梅ヶ枝が合流した
「付近のワープホールにてバグが発生したようです。向かわれますか?」
「「当たり前だろ」」
梨沢と柿本は揃って答えた