バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

25 愛と皮肉

『執行人』の能力にはいくらか制約がある
一つ、他人にしか効かない
一つ、他人を殺すことはできない
一つ、一日に一度しか使えない

「死」を乗り越えて「生」への切符を握らされた彼らの制約
その血のように赤い髪は「愛を残して死んだ者」への戒めである
その頑丈な体は「軽率に死んだ者」への罰である
その吐き出される言葉は「死なざるを得なかった者」への慰みである

母は泣いていた
清光の肩に顔をうずめ、すすり泣いていた
清光は金縛りにあったように身動きがとれないまま立っていた

「清光君は小さいころからとてつもなく頭がよかった」
一同が解散し、各々の持ち場につくころ、似長は雷堂からそんな話を聞かされていた
知能指数は160を超えていたかな。とにかく頭がよかったせいで、周りからういていたんだ。でも、彼はそんなこと気にしなかった。それよりも、その頭を酷使しようとしたのは、自分の母親だったからね」

「ごめんね、ごめんね、キヨミツ……」
そんな言葉ばかり繰り返され、清光は混乱してきた
「……アヤセキヨミツは死んでます」
清光はようやくその言葉を絞り出し、母を振りほどいた

「でも、彼の死後、一番彼にすがっていた母が泣いた。彼女は彼女なりに、清光君を愛していた」
雷堂はそう言って「皮肉なものだよ」と付け加えた
「彼は母を苦に死んだ。だが、その母親が彼を愛していたが故に、彼はもう一度生きなければならなくなった」
「……あいつは、母親になんていうんだろうな」

「僕は宇木清光。貴方の息子ではない。ただ、もう一度あなたが子供を望むなら、その子は幸せにさせてください」
清光は母をおいて踵を返す
そうして彼女の静止を聞かずに歩き出した
おいていかれた母はただぼんやりと彼の背中を見送った