バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

8 彼女の成長

「へぇ、サクライ出身なんだ。あのあたりは桜が綺麗よね」
「は、はい……」
柔らかく笑うフブキに、申し訳なさそうに視線を落とすマヨイ
とあるカフェのテラスで紅茶を飲む二人は、ルソーの合流を待っていた
本来ならばフブキだけでもよかったのだが、彼女自身の提案でマヨイも連れ出されている

「マヨイちゃんは学校で何かやってるの? その、部活とか」
「何もしてないですよ。部活にも入ってなくて。あ、でも休日はボードゲームをしに公民館にいきます」
「へぇ、珍しいわね。最近の子って、皆ソシャゲばかりだと思ってた。そういうの、やらないの?」
「はい。電子系はどうも苦手で」
「面白いわね」
ころころと笑うフブキにマヨイは笑い返そうとするが、ひきつった笑みにしかならなかった

「ふう。さて、そろそろルソーが帰ってくる時間ね」
フブキは立ち上がるそれを追おうとマヨイは立ち上がろうとした。が
「いてっ」
不意に後ろから何者かに腕を引っ張られ、立ち上がることができなかった

マヨイは後ろを振り向く
体格のいい男が後ろでマヨイの腕を抑えていた
空いている手には、拳銃を握っている
「ひっ!」
マヨイは視線を前方に戻し、フブキを呼ぼうとした
が、彼女の姿はどこにもない

「フブキさん……?」
不安げな声をマヨイは上げる
その時、後ろの男がわずかに声を漏らした

「ねぇ、マヨイちゃん。ちょっとの間動かないでもらえるかしら」
フブキの声が、何故か後ろから聞こえた
振り向くと、男の後ろで、フブキが笑いかけながら包丁を男の首元にかざしていた
血のように赤黒いそれは、「心器」であることが、マヨイにはわかった

男はマヨイの腕を離し、振り向きざまにフブキに殴りかかる
フブキはそれをかるくかわし、包丁の柄で拳銃を叩き落した
「彼女に手を出すのはやめてもらえないかしら?」
包丁の切っ先を向けながらフブキは問う
それでもなお襲い掛かる男に、フブキはふっとため息を吐いた
「そう。なら、仕方ないわね」

瞬間、男は背中に激痛を感じた
背中には包丁が突き立てられていた
前方に倒れる男の背後には、待ち合わせていたルソーがいた

「逃げましょうか、姉さん、マヨイさん」
騒ぎになる前に、三人はその場を離れていった

本当に、この人たちは殺人鬼なんだ
マヨイはそう実感せざるを得なかった