バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

9 心器の啓示

「はぁー、そいつは災難だったな」
アイラが感心したように声を上げる
いつものように食卓を囲ったハレルヤ家
中央に置かれた鍋からシチューを掬い上げ、フブキがついで回る

「安易に誘った私もいけなかったわね。これからの行動は気を付けるわ」
「というか、フブキさんも心器、使えたんですね。ルソーさんも知ってたんですか?」
草香の言葉にルソーは頷く
「小さいころは一緒にお風呂にもはいりましたしね」

「……あの」
遠慮気味にマヨイが声をあげた
「その、心器ってはじめて見たんですけど、ルソーさんもフブキさんも包丁、なんです……?」
「そうよ。どうかしたかしら」
マヨイは迷ったように視線を落とす

「危険な心器の使用者はそろって危ない人が多いって聞いたことがあって。それで」
「僕たちが危ない人ではないのか、ということですか」
ルソーの言葉に、マヨイは頷いた
「何だ、いまさら怖気づいたのか?」
「アイラさん、言葉は選んだ方がいいですよ」

「まぁ、その認識は間違っていないと思います。実際、僕は殺人鬼ですからね」
すぐに否定されると思ったマヨイは驚いて顔を上げる
「でも、どんな啓示を示されても、結局は使用者の一存によって危険かそうでないかはわかれると思います」
ルソーはマヨイを見た
「僕もいまだにこの心器には戸惑ってますから」

「アイラさんは何だったっけ。鎖だったわよね」
フブキの言葉にアイラは頷いた
「俺の啓示は「束縛」。まぁ、確かにこの世に縛り付けられて生きてるようなもんだしな」
「裁縫道具を扱うヤヨイさんの啓示は「縫合」でした。埋め合わせたい思いがあるそうです」

「それで、ルソーさんたちの啓示って……」
マヨイは恐々と聞いた
ルソーはふっと目を伏せる
「僕と姉さんの心器、包丁の啓示は」

「「狂気」」