バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

10 悠長と警戒

「ごめんね、マヨイさん。誘っておいて荷物持たせちゃって」
「いいんです。このくらいなら私も平気ですし、むしろお手伝いさせてほしかったんです」
手芸用品店を出、ヤヨイとマヨイは歩く

「あら、ヤヨイちゃん! 貴方双子だったっけ?」
近所の人が揃って声をかける
「違いますよー。よく似てるって言われますけどね」
ヤヨイは慣れたように返す。マヨイは申し訳なさそうにうつむく

「何うつむいてるの? 悪いことなんてしてないんだから、胸をはってもいいんだよ?」
「すみません。でも、こんなに似てると、ヤヨイさんに悪いなぁって」
「何言ってるの。生まれつきなんだからしょうがないじゃない。まさか前世がどうのなんて言えないし」
軽快に笑いながらヤヨイはマヨイの頭をなでた
「本当、いい人だよね、マヨイさんは」

「さてと。上がっていいよ。今日は手芸教室も休みなんだ」
ヤヨイに促され彼女の家にあがるマヨイ
家の奥からプードルが駆け寄り、ヤヨイの足にすりつく
「わぁ、犬飼ってるんですね」
「ちょっと仕事の関係で犬がたくさんいてね。不快じゃないならいいんだけど」
「とんでもないです。私も動物は好きですから」

リビングに入ると、ヤヨイの言う通り何匹もの犬がくつろいでいた
ヤヨイはマヨイを促し、中央の椅子に座らせる
「アップルパイとチョコケーキがあるけど、どっちがいい?」
「あ、アップルパイ、で」
慌てて答えるマヨイ
やがてヤヨイはトレーにパイをのせて運んできた
ガチャガチャと金属のこすれる音が聞こえる

「じゃあ早速お茶に……って、言いたいところなんだけど」
ヤヨイの切り出しにマヨイは身構える
ヤヨイはトレーに乗せてきたコインを取り上げて言った
「ちょっとだけ、付き合ってくれないかしら」