バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

12 強運の稼ぎ方

「へェ。そこまでくると怖いもんがあるな」
事務所に上がり込んだマヨイとヤヨイにコーヒーを振る舞い、ハシモトはいつもの調子で言った
「お前の強運、最早都市伝説レベルなんじゃねェの?」
「ちょっと、さすがにそれは失礼だと」
「いえ、いいんです。私も、自分でも怖かったので」

「そんなに運が強いなら、普通に生活できそうな気もするけどな?」
入り口近くの壁に寄りかかって、その場に居合わせたライターが言う
紹介はされたが異質な頭にマヨイはちらちら、こわごわとライターを眺める
「ところが、そうもいかねェんだわ」
ハシモトは資料と思しき紙の束を握ったまま言った

「つまるところ、マヨイの運気は「発揮される事態」に応じて発揮される。つまり、それまでのあいだに発揮されることはない」
「だから、殺人鬼に出会うか否かまで操作することはできないってことね」
「そう。ついでに言えば、ヤヨイと勘違いしている連中が襲うために探してるから、その中を無傷で潜り抜けるのは難しいってこった。」

「……私、あんまりこの力、好きじゃないんです」
マヨイはぽつりと呟いた
「ゲームをしてもいつも勝っちゃうから、イカサマ呼ばわりされて、好きなこともできなくなって、ずっと、苦しい思いをしてきました。だから……」
そこまでたどたどしく言葉を紡ぐと、マヨイは黙り込んでしまった

「……なぁ」
ふと何かを思いついたようにライターが声を上げた
「今回の件、マヨイに報酬を払わせた方がよくないか」

「ええっ、で、でも私、お金なんてもってないですよ!」
「持ってないなら作るんだよ。「賭け」でな。そこなら純粋な運が必要になってくる。お前なら稼げるだろ」
「え、えぇ……」
混乱したようにマヨイが声をあげる

「まぁ、あくまで参考程度だけどな。でも、ハシモトの野郎は金の亡者だからな」
机にひじをついてにやにやとするハシモトを横目にライターは言った
「どこまでやるかは自分で決めな。それに俺は介入しねぇよ」
そう言ってライターは奥の部屋に引っ込んだ

「……さて、どうする?」
笑いながら問いかけるハシモトに、やや疲弊した声でマヨイは答えた
「考えさせてください……」