バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

20 『火花』

熱の中を風が切り抜ける
ヤヨイは一歩ずつ下がりながら『火花』に攻撃を試みるが、彼はホースを振り回して炎をあげるために近寄れない
「おらおら、どうした『仕立て屋』! それでも殺人鬼かよ!」
挑発的な『火花』にいらだちを覚えるが、打つ手がない

「こないならこっちから行くぜ!」
『火花』はホースを背に戻し、懐から拳銃を取り出した
ヤヨイは焦った。周りは炎の海なのである
夏の暑さと溶け合い熱はヤヨイの意識をもうろうとさせる
『火花』はその中でも、平気でヤヨイに拳銃を向ける

一発、二発。あたりこそしなかったが、ヤヨイの背後の壁が音を立てる
「さぁて、そろそろ死んでくれねぇかな、『仕立て屋』」
『火花』が再び拳銃を構えた

今しかない
ヤヨイは地を踏みしめ、思い切りけりだした
突然の加速に『火花』はひるみ、わずかに拳銃をあげる
その拳銃をはたき落とし、右手に掴んでいた心器の鋏を思い切り『火花』の首筋に突き立てた

「あっ……!?」
『火花』の呼吸が乱れる
ヤヨイはその間に取り出してた糸を操り、『火花』の首を刈り取った

「……急がなきゃ」
『火花』の死体をそのままに、ヤヨイは炎をよけながら先へと進んだ
マヨイが、マヨイのことが心配で仕方なかったのである