バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

21 『閃光』

「いい加減諦めようとは思わないのかね」
後ろから声を投げる『閃光』
その声もマヨイは振り切り、息を切らして走る
「自分の命のことなのに、諦められるわけないでしょ……!」

「君は死にたいと思ったことはないのか」
『閃光』は背中の装置から延びるコードを引っ張り出し、その先についているメスを放った
それが足をかすめた瞬間、マヨイは焼けるような激痛を感じて転んでしまった
すぐに立ち上がろうとしたが、その前に『閃光』が追いついて肩口を抑えた

「のんきでいいものだな。殺人鬼でありながら、あるいはそれに近しいものでありながら、自分の生に何も疑問を持たないというのは」
『閃光』はまっすぐマヨイを見下ろして言った
「……私はそのあたりの事情、全く関係ないんですけど」
マヨイは視線をあげたまま言う
当然だ。マヨイ自身は意図せず巻き込まれたのだから

「まぁ、ここで取り逃がすわけにはいかないからな」
『閃光』は空いた手にメスを握り直し、振り上げた
「ここで死んでもら――」

「そうはいかねぇよ」
その時だった、不意に空から『閃光』を蹴とばす足と共にその声が降ってきたのは
完全に油断していた『閃光』は大きく飛ばされる
何が起こったのかわからないまま、マヨイはぽかんと天を仰ぐ

「ちょっとよそ向いてろ、ガキ」
そんな声が聞こえた気がして、マヨイは慌てて後ろを向いた
次に耳に届いたのは、何かを引き裂く嫌な音
マヨイはその音があまりに不快で、しばらく前を向けなかった

「……おら、いいぞ」
やがてそんな声が聞こえ、マヨイは恐る恐る振り返る
目の前には血だまりこそあったが、『閃光』の姿はどこにもなかった
かわりに立っていたのは、フードを深く被った返り血まみれの男
彼はぼうっとしていたマヨイの手を引いて歩き出した

「あ、あの」
マヨイは声を上げる
それに思い出したかのように男は言った
「『篝火』でいい。『ハシモト』の言いつけでここに来た。安心しろ、お前の味方だ」