バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

30 揺れ動く心

「ただいま」
マヨイはそう一言呟き、ハレルヤ家へと帰ってきた
ハシモトはすでに帰っていたが、残りのメンバーがすぐに駆け寄る
「マヨイちゃん、大丈夫だった? 襲われなかった?」
「大丈夫です。ちょっと、疲れたけど」

態度は明らかによそよそしくなっていた
それは自分自身でも分かっていて、それなのにいつものようにふるまえない自分に、マヨイは腹が立った
「晩御飯まであと少しだけど、どうする?」
「できたら呼んでください。少し部屋で休憩します」
マヨイはそのまま二階へと上がっていった

ぼすんと音を立ててベッドに身を投げたマヨイは、ぼんやり考える
『猿回し』はヤヨイたちの敵だ。だから、嘘をついているかもしれない
だが、カルミア騒動をヤヨイたちが起こし、カルミアが潰れたのは間違いなかった
「もう、何を信じればいいの……」
じわり、視界がにじむ
もう彼女には何を信じればいいのかわからなくなっていた

その時、こんこんとドアが音を立てた
「……」
マヨイは声をかけるのをためらう
やがてドアがゆっくり開き、ヤヨイが顔を出した

「マヨイさん、大丈夫?」
大丈夫ではなかった。しかし、心配してくれるヤヨイにさらに心配はかけたくなかった
「大丈夫です、ヤヨイさ――」

マヨイにはその瞬間、何が起こったかわからなかった
ただ、気が付いた時には、腕を引っ張られてヤヨイの胸に収まっていた
「……マヨイさんは「いい人」だから、無理をして隠そうする」
ヤヨイが言う
「けど、今この時だけは、信じてほしいの。私は決して「いい人」ではないけど、信じてほしい」

今そう言った相手が、父親の敵だとは信じたくなかった
だから、どうしようか迷って、しかしどこか安心して、マヨイは泣いた
まだ子供であるマヨイが、精一杯主張しようとした結果であった