バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

彼女の世界の作り方

「梨沢、ちょっといい?」
丁度休憩しようと降りてきた梨沢に、栗原が声をかけた
「真苅にお茶運んでもらえる?」

「べつにかまわねぇけど、真苅、何かしてんのか?」
「朝からバグの報告が届いてね。外部からの応援ってことで、こっそり参加してるんだ」
真苅が機械技師として右に出るものがいないほどのプロであることは、勿論外部には内緒である
「それで、報告書受け取ってからずっと籠ってる。休憩させてあげて」

真苅の仕事場は地下に特別に作られている
干渉を嫌う梨沢はそこに入るのは初めてだった
「真苅、入るぞ」
ノックを三つし、梨沢はそう声をかけて入った

暗い部屋を煌々と照らすのは青い板状の電子パネル
それを部屋中にたくさん開き、それだけで十分な光となっているようであった
その部屋の中央、椅子に座って前のめりになり、パネルを操作する一人の人間、真苅
梨沢は思った、その光景だけで、彼女が「異端」であることをそのまま語れそうな景色であると

「……ん? おお、梨沢か」
真苅が後方の梨沢に気づいて振り返る
「栗原が心配してたぜ。朝から仕事詰めだって? お茶、もってきたから休憩しろよ」
「ありがとな。一緒に飲む?」
真苅の誘いに梨沢は一瞬迷ったが、すぐに頷いた
「ああ、いいぜ」

本音を言えば彼は舌を巻いていた
今まで偉そうに「フィジカリスト(物理学者)」を名乗っていたが、本当のプロになると住んでいる世界が違うのだと思い知らされたのである
彼女は、その世界に住まってきて、どんな目で世界を見てきたのだろうか
不思議と、知的好奇心がこみあげてきていた