バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

15 誘惑

気が付くと、そこは暗い部屋だった
牢屋と言った方が正しいだろうか。鉄の格子に空間が隔離され、その床に転がっていた
一瞬何があったか兼森には理解できなかった
しかし、やがて気が付く。自分がとらわれていることに

記憶を遡る限り、買い出しの帰りに襲われたようである
とにかくこの状況を打破せねばならないと、兼森は靴のかかとをスライドさせた
中から出てきたのは発信機。第4部隊に入隊した時に支給されたものだ
兼森はそのスイッチを入れ、再びかかとに隠した

さて、と兼森はあたりを見渡す
左右上下、そして背後は石造りになっており、出られるのは正面の格子からであろう
兼森は髪につけていたヘアピンを取り外すと、半ば無理矢理に扉のカギ穴に差し込んだ

やがて鈍い音を立てて鍵の開く音がした
兼森はヘアピンをポケットにしまい、そっと牢から出てきた
生命がいるのかすら疑われるくらいに中は寒い
兼森は身を隠しながらでたらめに道を進む

時々道をわたってくるのはやはり人形であった
ここはおそらく人形の拠点。あるいはその一つなのかもしれない
その時

「やぁ、目が覚めたようですね」
その声を聴いて振り返ると、二体の人形がそこに立っていた
ハロとスイだ

「そんなにうろうろして、出口を探すつもりでしたか?」
「そんなこと、許してはくれないだろう?」
兼森は今、仕事中にさらわれなかったのを強く後悔した
手元には拳銃も軍刀もないのである

ところが
「うーん、僕としてはさっさと出ていってもらいたいしねぇ」
予想外の返事をくらって兼森は硬直する
「案内しましょうか?」
ハロのその言葉に、兼森は迷った
このハロという人形、絶対何か考えている。しかしほかに頼るものもない
「……今回だけだからね」
兼森の返事に、「よろしい」と満足げにハロは言った

ハロの後をついていきながら、兼森は警戒していた
何処に連れ出されるか、はたまた殺されるかもわからなかったのである
不意に、ハロは「ああ、そういえば」と立ち止まった
「ついでに、面白いものを見に行きませんか?」