バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

4 「古伊勢博士」

「やぁ、帰って来たんだね」
裏事務所に戻り、上着を脱ぐハシモトに声がかかる
振り向くと、白いスーツの男がそこに立っていた
いや、厳密には「男の姿をしたアンドロイド」なのであるが
明るい青の目が、彼をアンドロイドたらしめる証明のようである

「そんなに帰ってくるのが不満か?」
ハシモトは男に問う
「そりゃぁもう、ありもしないのに吐き気を伴うようだよ」

「なァ、名瀬田。お前がルソーを襲ったことに関しては認めてやるよ。あいつが草香になにかしら影響を及ぼしかねないことはよくわかっている」
上着を椅子にひっかけ、ハシモトは簡易キッチンに足をのばす
「けどよ、草香とほとんど縁のない俺がお前に恨まれるってのは納得いかねェ。何があってそんなに嫌悪してるんだ?」
名瀬田と呼ばれた男は笑顔のまま返す
「そりゃあ、君があの忌々しい博士の生まれ変わりだからね」

「君の知能、存分に思い知らされて僕は壊れるほど悔しい思いをしているんだ」
名瀬田は机の前のソファに腰かけた
「君があの医者……僕からすれば恩人だけど、彼に入れ知恵して『悪い虫』を追い払えなくなったのは悔しい。その頭の回り方、まさに僕の知っている「古伊勢博士」そのものだね」

「いや、あながちそうでもないかもしれねェぜ」
ハシモトはコーヒーの入ったカップを二つ持ってきた
「昔の「古伊勢博士」ってのは、話を聞く限り善人だったらしいじゃねェの。俺みたいに悪いやつとは思えねェんだけどなァ、草香の話を聞く限り」
ハシモトはそういって、カップの一つを名瀬田の前に置いた

「さっさと飲めよ。冷えるぜ」
「……そういうところが嫌いなんだけどなぁ」
名瀬田はそういいつつ、コーヒーを口に含んだ