バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

11 理解と許容

『『匠』に襲われた?』
電話口でルソーが言う
ハシモトは「そうなんだよ」と言って続ける
「いよいよ俺にもツケがまわってきたのかねェ」
『今更な気もしますけどね』

「それでさ、気が動転しちまったみたいでさ。俺、久しぶりに見ちまった」
『何をです』
「「亡霊」」
ハシモトの言葉にルソーがため息を吐くのが聞こえた
『まだ、ひきずっているんですね』
「人のこと言えないだろうがよ、このシスコン」

勤め先の法律相談所の外にある喫煙所
ハシモトはそこで煙草をふかしながら通話していた
最近煙草の本数を減らしたとはいえ、定期的に吸いに行く癖は抜けない

『あなたの場合はもう終わったことでしょう。今更引きずっても、いい結果はかえって来ないんですから』
「ああ、そうだよな。わかっちゃいるんだけど」
ハシモトはそっと煙草の灰を落として言った
「理解と許容は、全然違うものらしいからな」
『……』

「そういやルソー、今夜あいてるならうちに来てくれないか」
『仕事の話ですか。僕はかまいませんよ』
「ありがとう。今晩、待ってるからな」
そう言って端末を切り、ハシモトは喫煙所から出た
煙の臭いのついたスーツをかるくはたき、法律相談所へと戻っていった