バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

12 カルミアの目論見

「それじゃ、お疲れさん」
「ハシモトさん、今日は早いですね」
「今日は仕事が早くあがったんでね」
一通り会話を交わしてハシモトは法律相談所から出てきた

『匠』の一件から、ハシモトは用心深く周囲を見渡すようになった
手遅れであったとしても、事前の予測程度ならなんとかなると思ったからだ
しかし、今回はそんな心配もいらなかった
その相手はまっすぐこちらに歩み寄り、頭を軽く下げて挨拶までしたのだから
ごきげんよう。少しお時間よろしくて?」

水仙』を連れてカフェに入ったハシモトは、彼女におごると言って紅茶を二杯頼んだ
勿論、そこに及ぶまでにひと悶着あったが、『水仙』が凶器を所持してないのを確認し、今に至る
「どうしたんだよ。お前の方からこっちにくるなんて」
「あら、貴方が心配で来たと言ったら、笑いますの?」

「貴方には恩がありますからね。色んな薬の使い方を教えてくださった恩が」
そう、『水仙』の手口はこのところ巧妙化しており、単純な毒殺だけにとどまらなくなっていた
その原点となったのが、カルミアでの自白剤の使用である
その手はずを教えたのがハシモトであった
「あの時はお前を2億で買っただろうが」
「ですが、それ以上に半永久的な「モノ」を手に入れましたから、貴方は恩人ですの」

「それで、何の用だよ。態々こっちに来たってことは、何か持ってきたんだろ」
「そうそう、そうでしたわ」
水仙』は砂糖とミルクを紅茶に落とし、かき混ぜる
奇妙な文様を描きながらミルクの白が広がる

「その「カルミア」なんですけど、最近貴方をとらえることに必死になってるみたいですわよ」
「……なんだと?」
真夏の日はヤヨイを標的にかかげていたカルミアの標的がうつった
嫌な感覚がハシモトに走る

「気を付けておいた方がよろしくて。貴方の首は今、かなり価値のあるものになりつつある」
紅茶を一口飲んだ『水仙』は、真剣なまなざしでハシモトを見る
「いざというときは私も動きますが、完全ではないことをお忘れなく」
「……」

正直なところ、カルミアが何をもくろんでいるのか見当もつかなかった
ブローカーとしての技量しか持ち合わせてない自分を、なぜそんなにもほしがるのか釈然としなかったのである
だから、この情報も『水仙』が持ってこなければ聞き逃していた
「……パフェでも食うか?」
「貴方のおごりで」
ハシモトはウエイトレスを呼んだ