バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

15 白衣の人物

「えーっと、確かコーヒー切らしてたな」
ハシモトはぶつぶつと呟きながら買い物かごをひっさげる
常に高みの見物であるハシモトだが、買い物だけは自ら行うようにしている
言わずもがな、「金」と「安心」のためである

「うし、こんなもんか」
買い物かごを袋に切り替え、ハシモトは帰路につく
そうしてゆっくりと、周りを見渡しながら裏事務所への道をいく

「……」
ハシモトは歩みを止めずに後ろを見やる
先ほどから同じ人物がこちらをついてきているようなのだ
白衣を着たまま歩くその姿は、最早隠れるつもりもないのだろう

ハシモトは迷わなかった
袋を捨て、人をかき分けて走り出した
後ろの白衣の男もそれに気づいて走り出す
やはり狙いは自分なのだろう。ハシモトは舌打ちをした

人の少ないところまで誘導すると、ハシモトは振り返った
白衣の人物は息を切らしていたが、ぬっと顔を上げると笑顔を振りまいた
「やぁ、こんなところで逢えるなんて奇遇だね」
「何が奇遇だ。ずっと俺を追っていただろう、『薬師』」
「わぁ、『猿回し』の言う通りだ。底辺のわりに知識は人一倍だね」

「それで、俺に何の用だ」
「やだなぁ、そんなの一つしかないじゃないか」
『薬師』は白衣の内側から数本試験管を取り出した
「君を招待するためさ、カルミアにね」