バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

16 人を撃てない男

放たれた試験管をよけるのにハシモトは集中していた
右手に拳銃は握っているが、一向にそれをかまえようとしない
撃つことがあっても、足元に数発だ
『薬師』は笑いながらハシモトを挑発する

「どうしたんだい? 裏世界にいながら護身の術も知らないのか?」
「……」
ハシモトは答えない
『薬師』は不意に、試験管を投げる手を止めた

「あ?」
ハシモトは唸る
「撃ってみなよ、その拳銃で」
『薬師』の言葉に、ハシモトは冷や汗を流した

「何で、そんなこと……」
「自分の命の危険が迫っているというのに、その拳銃を使わないなんておかしいじゃないか」
『薬師』はにやりと笑って言った
「それとも、『ハシモト』、君は……」

「「人を撃てない」んじゃないのか?」

「ッ……!」
「あはは! やっぱりね! 近くに仲間がいなければ君はただの木偶の坊だ!」
笑いながら『薬師』は試験管を構える
「そんな君には濃塩酸でもプレゼントしようか。苦しみながらそこに沈みなよ!」
『薬師』はそう言って試験管を放った

ところが、ハシモトの前に誰かが割って入り、試験管をはじいた
「!」
「『ネズミ』!」

『ネズミ』は前方にナイフを構えたまま言った
「ここはご主人の縄張り。勝手に荒らさないでいただけませんか」
「『ネズミ』、お前」
「『ハシモト』は逃げて。ここは僕がなんとかする」
『ネズミ』はハシモトにそう告げると、『薬師』に向かって切りかかった
ハシモトはそれを見届け、その場から逃げ出した