バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

17 問題提起

裏事務所に転がり込むと、丁度先に来ていたルソーと鉢合わせた
この寒い時期に汗だくになっているハシモトを見、ルソーは眉間にしわを寄せた
「どうしたのですか、貴方らしくもない」
ルソーはハシモトを部屋の奥まで引っ張り込んだ

「人が撃てない?」
ようやく平静を取り戻したハシモトに訊いてみれば、そんな答えが返ってきた
「ああ、悔しいけどな」
「それが故に危険な目にあったのですか」
「ちょいと路地で襲われた」
「ちょいと、じゃないでしょう」

ハシモトはコーヒーをルソーの目の前に置いた
自分のはまだ淹れていない。飲む気にもなってないからだ
「……貴方、存外に親切な人なんじゃないですか」
「親切な闇ブローカーがどこにいる」
ハシモトは吐き捨てた

「人が目の前で死ぬのは、確かに嫌なものです」
「お前がそんなこと言っていいのか?」
「……よくない、でしょうね」
ルソーは小さく呟く

「ハシモト、貴方は平気なふりして人の「死」には人一倍敏感なこと、そろそろ自覚してください」
ルソーはコーヒーを口に運ぶ
「貴方の両親が、悲しみます」

「親の話はしないでくれ!」
不意にハシモトは大声を上げた
ルソーはそんなハシモトを黙ってみている
「俺が、俺が早く帰りさえすれば、親父も、お袋も……!」
ハシモトはこぶしを握り締めた

「……すまねぇ、荒れちまった」
やがてぽつりとハシモトはそう呟き、立ち上がった
「少し休ませてくれ。今はただきつい」
「わかりました」
ルソーはハシモトを見送ると、カップを再び持ち上げた