バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

18 彼の過去

エミ・フルイセは少し裕福な家庭に生まれた
優しい母と厳格な父のもとで幸せに育ったと、彼自身そう思っている
しかし、高校時代に両親を共に亡くしている

強盗に襲われて死んだと聞いている
その日は雨が降っていた
規制ロープの向こう側で、傘もささずに彼は立ち尽くした
じっとりと濡れるシャツが、雨なのか、汗なのか、涙なのかもわからなかった

その日の晩から、彼は幻覚にとらわれた
あの時濡れてはりついたシャツのように、「亡霊」がしがみ付いて離れなくなった
お前が居れば死ぬ時も一緒だったのに
そう囁かれているような気がして、彼は何度もその場にうずくまった

そのうち彼は持ち前の頭で父の務めていた法律相談所に就職した
だが、平穏は訪れなかった
彼は復讐を心に誓い、裏世界に足を踏み入れた



「……ハシモト、起きてますか」
ルソーがそっと声をかける
ハシモトは首を振り、ゆっくりと起き上がった
「ん、ああ……。すまねェ。今、何時だ」
「午後7時です。少しは疲れが取れましたか」
「まずまずだな」

「ハシモト、食事の用意ができていないのであれば、今日はうちで食べませんか」
ハシモトは考えた。確かに食事の用意をすっかり忘れていた
どころか途中で荷物を捨てている
「……お前が送ってくれるんなら」
「いいですよ。準備してください。シャツはちゃんと着て」
ルソーは気にすることもなくそう言った