バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

22 追われる彼の本気

すっかり日が暮れ、眼前を闇が覆う
この時期になると風も冷たく、それでもスーツひとつでハシモトは歩く
ガサリ。何かの音がした
ハシモトは振り返る。そこにはなにもいない

「……いるんだろ。出て来いよ」
ハシモトは胸の内ポケットに手を持って行きながら言った
カルミアのお抱えか?それがひ、ふ、み」
がさがさと茂みが揺れた
何か来る。ハシモトは踵を返して走り出した

自分の後ろから足音がこちらに複数近づいてくるのがわかった
ハシモトは細い路地まで敵を誘い込むと、正面きって内ポケットから取り出した拳銃を向けた
「こいよ。今までの俺とは一味違うぜ」

先頭きって走ってきた男がバットのようなものを振り下ろす
ハシモトはそれをかわし、バットを握る右腕に向けて発砲した

敵がバットを落としたのを確認する間もなく、足を掬い上げて転ばせた
そのまま前進し、二人目の頭に掴みかかると、首に銃身を打ち付けてそのまま後続に放り投げた
背中を蹴って踏み倒すように突破し、威嚇のために銃を二発

敵がひるんだところに突っ込み、姿勢を低くして大通りへの道筋へ進む
途中で二発銃弾を放ったが、さすがに無理がきているのであろう。敵との距離が縮んでいく
「……ここまでかよ」
ハシモトが呟いたその時だ

ふわり。生暖かい風が吹き抜けていった
いや、風ではない。ハシモトにはそれが「亡霊」に見えた
思わず振り返ると、「亡霊」は敵をからめとり、身動きを制限している
ハシモトはチャンスとばかりに先頭の男を撃ち抜き、再び走り出した

「……」
あれが何を意味するかなど、考える余裕もなかった
ただ、「亡霊」は確かに自分の味方をしてくれた

ぽつり
数滴、水がしたたり落ちたと思うや否や、それはシャワーのように降り注ぐ雨となった
シャツがはりついて気持ちがわるかったが、それでも何かすとんと落ちたようにすがすがしかった
ハシモトは雨の中、傘もささずに歩き続けた