バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

字書地獄4「青い空と赤い葉」

「おや」
不意にそう呟いて、上官は足を止めた
つられて止まる私は、上官の視線をたどって上を向いた
「もう紅葉の季節なんだね」

「空が青いもとで紅葉を眺めるのは久しぶりだ」
私は頷く
風に揺られる紅葉と背景の青い空が見事にきれいなコントラストを描いていた
「三年間、夕日を眺め続けるだけで、こんな何気ないシーンにも感動するんですね」
私はそう言って返した



基地に戻って資料を整理していると、部下が歩み寄ってきた
「おはようございます、隊長」
「おはよう、兼森君」

「人形との生活はどうだい」
世間話をするように私は切り出した
「大変ですけど、ハロもスイも毎日新鮮みたいで、楽しく生活しています」
兼森君は楽しそうに話してくる
一時はどうなることかと思ったが、安心してもよさそうだった

「そうそう、この間紅葉が珍しかったらしくて、拾って見せてくれたんですよ」
そういえば、と私は思う
「人形にとって、青い空になってから紅葉を見るのは初めてだろうからね」

「もっと、初めてが増えてきて、当たり前になっていくんですかね」
「新鮮な気持ちは忘れてはならないよ、兼森君」
私は窓越しに紅葉の映える風景を見た



「逢魔ヶ刻に止まる刻」番外
青い空と赤い葉