バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

字書地獄3「打ち上げ花火」

祭りは嫌いだ
溢れかえる人。喚き声。混ざりに混ざる匂い
そして、打ち上げ花火

「今年もミカガミ祭りの季節かぁ」
掲示板のポスターを見ながらフブキは呟く
ルソーもつられてそちらを見ると、派手なポスターが目に入ってきた
また騒がしい日が来るのかと思うと、少しやるせなくなる

とはいえ嫌になる理由には退勤と時間がかぶって人がごった返すところがあった
今年は幸いにも休日で、無理に出なければ問題はなかった
「……いきたいなぁ」
そう、無理に出なければ



「よかったの、ルソー? せっかくの休みだったのに」
神社までの通り道を歩きながらフブキは横を歩くルソーに訊いた
「姉さんがこんなに大勢の場所に久しぶりに出るというのに、放っておけるわけないじゃないですか」
「ちょっとー、そんなに軟弱じゃないわよ、私は」

それにしても、とルソーはちらりとフブキを見る
彼女はヤヨイの着付けにより淡いピンク色の浴衣姿だった
すぐに目をはなしたが、胸の奥が鳴っている
そんなことも知らないフブキはルソーの手を引き、屋台の列に入っていった



「うーん、やっぱりお祭り楽しいわね!」
人気の少ないところで休憩するフブキは林檎飴をかじりながらニコニコしている
ルソーはその笑顔を眺めながら、ふっと息を吐いた
その時

ドン、パラパラパラ
「あ、花火」
二人は空を見上げる
真っ暗な夜の空に、ぱっと光の花が咲く

祭りは嫌いだ
溢れかえる人。喚き声。混ざりに混ざる匂い
そして、打ち上げ花火

音が大きくて、昔からびっくりしてしまうのだ
そして、クライマックスに向かうに従い短くなっていく間隔
それが、胸の跳ね上げとリンクして、徐々に早く、息苦しくなっていく

「あ」
ルソーは声を上げた
それに気づいたフブキは、そっと彼を引き寄せた

「大丈夫。私は殺人鬼になっても、あなたの味方だから。貴方を見放したりしないから」
ルソーの中で何かが高ぶった
「……はい」
それだけしぼりだすと、ルソーはフブキ越しに空を見上げた
花火の陰になっていても、姉の姿は美しかった



「凛とした殺人鬼」番外
打ち上げ花火