バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

動揺

「このセカイにいる人は、その殆どが前のセカイでの記憶を消去されている、という話を伺ったことがあります」
紅茶のカップを置きながら梅ヶ枝は言った
「故に、私も異探偵を結成する前のことを覚えておりません。我々は最初から異探偵でした。それ以上でもそれ以下でもありません」
「……」
眉間にしわを寄せた梨沢が腕を組む

「お前も覚えてないのかよ。こりゃ、鬼才さんがますます怪しくなるじゃねぇか」
「鬼才様が覚えてるかどうかは私の計り知れたことではございません。彼は悪くないのです」
梅ヶ枝は梨沢を見た
「逆に、貴方がどうしてそんなに過去にこだわるかがわかりません」
「あ?」

「過去を知ったところで、何も変わりません。それなのに貴方は詮索しようとする」
張りつめた声で梅ヶ枝は言う
「【フィジカリスト】特有の好奇心かもしれませんが、あまり知らないほうがいいこともあります」
「……」

「わかったよ。この話は二度としない」
梨沢は立ち上がった
「自室に籠る。誰も入れるな」
「了解いたしました」

「……あと、梅ヶ枝」
梨沢は振り向いた
「お前は嘘が下手だな。覚えてるんだろ、過去のこと」
「……いいえ」

「「前のセカイ」があると、お前はいつから知っていた」
「!」
「記憶がないのであれば、そんなの嘘偽りだと思うはずなんだがな」
梨沢はそう言って立ち去った