バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

ヒーローに成りたかった少年

「俺さ、ヒーローになりたかったんだ」
社員が出払って梨沢と柿本と林檎だけとなった事務所内
ジュースを飲みきって空のコップを振りながら柿本は言った

「昔っからずーっと憧れでさ。俺もあんな風にかっこよく人助けしたい。そう思ってた」
梨沢は静かに耳を傾けている
「けどよ、ある人に言われたんだ。「お前は女なんだから無理だ」って。そんなことないって反発したけど、結局、ヒーローにはなれなかった」

「……」
梨沢は顔をあげた
「けど、もういいんだ。今こうして異探偵やってて、曲がりなりにも人助けができてるから、俺は幸せだ。だって……」

「我慢しなくていいんだぞ、柿本」
梨沢のその声で柿本ははっとした
「悔しかったに決まってるじゃねぇか。何が女だからだ。お前はヒーローになるんだろ?」

「……梨沢」
「泣け。今なら俺と林檎しかいない」
柿本は一度は我慢した。しかし、押し寄せる波に耐えきれなくなり、ぽたぽたと涙を流し始めた
「梨沢ぁ……」
「……」
梨沢はあえてそっぽをむいていたが、手は柿本の頭に乗せられていた