バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

【エピソード・桃子】非情な別れ

ガツン
梅ヶ枝の突きがルイウにヒットし、ルイウがわずかに飛ばされる
そこにすかさず梨沢が間を詰め、盾全体で押し飛ばした
「警戒はしていたが、さほど強くはなさそうだな」
「わかりません。仮にもレベル【6】です、何か隠し持ってるかもしれません」

「だったら、それを使わせる前に仕留める!」
梨沢は蹴りだし、ルイウに向かって盾のへりで突き上げようとした
その時だった

「梨沢君! ちょっとまって!」
鬼才の声が耳に入り、梨沢は動きを止めた
そして、前を見る
「……お前」
梨沢とルイウの間には、ルイウをかばうように加原が立っていた

「桃子!」
遅れて柿本が走ってきた
「そいつは杏子じゃない! ルイウだ! 離れろ!」
「違う。杏子ちゃんだもん。ようやく見つけたんだもん!」

「! 加原様、離れて!」
梅ヶ枝が加原の手を引いて無理矢理引きはがす
加原のいた場所に、ルイウはひっかきにかかっていた
「放して、梅ヶ枝さん!」
「なりません! 一度落ち着いてください!」

「柿本、教えてくれ」
梨沢は小声で言った。柿本は頷き、ルイウを見る
「奴が水島の姿をしているのは間違いないんだな」
「ああ。俺の目から見ても完全に杏子の姿だ」

「となると、憑依型のルイウかもしれない。精神汚染までつかってくる、厄介な奴だ」
梨沢は柿本の肩を叩いた
「あのルイウの首を撥ねろ」
「えっ……?」

「行方不明になったのが2週間前だ。そこから換算しても、既に体内の汚染は進行してるだろう。ルイウを追い出せてももとに戻る可能性はかなり低い」
「……」
柿本は足元を見て考え込んだが、やがて一つ頷いた
「わかった、やろう」

「梅ヶ枝! 後ろ向いてろ!」
「了解しました」
梅ヶ枝は加原を抱えたまま後ろを向く
それを確認した柿本は、それでもつらそうな表情で鉈状の双刀を取り出した

二人は同時に蹴りだした
攻撃を仕掛けてくるルイウに、梨沢が盾でそれを防ぐ
「柿本!」
梨沢の背と盾の縁を蹴り、柿本が高く飛び上がる

「でりゃああああ!!」
自らに重力を付与し、重くなった双刀でルイウの首を叩き落す
『アアアアア!!』
潰れた化け物のような悲鳴をあげ、首と体はそこに落とされた
すると、断面からずるりと黒い霧が現れた
おそらくあれが、ルイウの「正体」

「『最悪の開放(パンドラボックス)』!」
梨沢がルイウを睨みつけると、凄い勢いで彼の足元から濃紫のオーラが飛び出し、ルイウに襲い掛かった
精神攻撃にあたる梨沢の属性「もう一つの闇」は、精神を汚染するルイウに強い。時としてその力は、実体を持たないルイウを牽制し、消滅させる力を持つ
霧状となったルイウはオーラに巻き込まれ、少しづつ消滅していった

『霧型ルイウ【6】、討伐を終了します』
そのアナウンスを聞いた梨沢は、その場に崩れ落ちた
「梨沢君!」
鬼才が駆け寄る。梨沢は無理に体を起こして言った
「俺はいい。周りの女たちは大丈夫なのか?」
「眠らされているだけだったよ。……それよりも」
鬼才は後ろを振り向く
そこには、既に灰となってしまった杏子と、立ち尽くす加原がいた

「……桃子」
柿本が傍による
「……」
加原は何も返さない。柿本は視線を落とした

「……杏子ちゃんはね、可愛い子が大好きだったの」
ぽつりと、加原は口を開いた
「幸せになれたかな、杏子ちゃんは」
「……」
はたはたと、加原は涙を地面に落としていた
柿本が抱き寄せると、感情のダムが決壊したように、加原は声を上げて泣いた