バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

管崎嘉平は悪魔と遭遇する(1万人突破記念)

「ふぁ……」
空に欠伸一つ、管崎嘉平は喫茶店の一角でうつらうつらとしていた
放浪を始めて早数年と数日。気ままな一人旅は寄り道の連続である

そこに
「Hey」
そう声をかけられて嘉平は顔を上げた
「Ah,can you speak English? I  have a talk with you. So...」
突然話しかけられたが嘉平はかろうじてそれが英語であることを察した。
「あー、あーあー、何だっけ、あいどんと……あれ?」
首をかしげながらなんとかコンタクトを取ろうとする
それを見て目の前の人物は声を殺しながら笑い出した

「いやぁ、すまんすまん。ちょっとからかってみただけだ」
そう、目の前の人物は流暢な日本語で切り返してきたので嘉平はほっとした
「何だよ、驚かすなよ」
「悪いね。誰か待ってるのか?」
「いや、俺一人」
「じゃ、ちょっとお喋りに付き合ってくれよ」
目の前の人物はどっかりと向かいの席に座った

嘉平は改めて目の前の人物を見た
銀色の髪に色素の薄い肌。おそらく英語圏の人間だ
右手には宝玉のついた杖が握られている
そして、その人物の左目は、赤かった

「お前、その目は……」
「ん、ああ、これ? 気にするなよ、ただの色素異常だ」
一瞬家系を思い出して慌てたが、そもそも管崎の血筋でもないのに同じ理由で目が赤いとは思えない
「お前さん、この辺の人にしちゃ浮いてるな。旅の者か?」
「ああ。ちょっとした旅さ。そういうあんたは?」
「迎えが来るまでの時間稼ぎ。旅といえば旅だな」
目の前の人物はにししと笑う

「あんたはこの世界、どう思う」
急に規模の大きい話になったな、と嘉平は思う
「悪くないと思うぜ。この世界、というか、俺の知ってる場所は、皆いいもんだ」
「……そうか」

「そういうあんたはどうなんだ?」
何気なく訊いたつもりだった
だが、彼は一瞬だけ、人間味のこもってない目でこちらを見た
「俺はまだよくなるって、信じてる」
それだけ言うと、彼は立ち上がった

「あんた、名前は」
「……管崎嘉平。あんたは」
「ルベルト・ファゴット。それじゃ、また逢う日まで
彼はそれだけ言って杖をつきながら立ち去った
残された嘉平は暫くドアの方を眺めていた