バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

神宮結の買い物帰り(1万人突破記念)

「ふう、買った買った」
息を漏らしながら男、神宮結は言う
安売りの店を梯子し、ようやく今日の夕飯の材料を買いそろえたところである

「うん?」
不意に声が聞こえた気がして、結は振り返った
「あ、気づかれてもうたわ」
そう言いながら女性が近づく
女性と呼ぶには幼いが、少女と呼ぶには大人すぎる、「年頃の女の子」だ

「なぁ、綺麗な髪色しとるなぁ。それメッシュなん?」
女性は初対面にも関わらず親し気に話しかけてくる
不思議と悪い気はしながったので、相手をしてやることにした
「ああ。そういう君も綺麗な金髪じゃないか」
「これは地毛やねん。自分でも気に入っとるんや。ありがとな」

「あ、いた。真苅ー」
やや遠くから声がする
振り向いた女性はそのまま声の方に歩いていく
「一人でうろうろすんなよ」
「悪かったわ、梨沢。ちょっと素敵な人を見つけてもうて」
「素敵な人?」
男は結を見る。結も男を見た
女性よりも薄い金髪の、長髪の男だ

「うちの真苅が世話になっちまったな。悪い」
「いや、俺も楽しかったから大丈夫」
先ほどの女性・真苅とは違い、人と距離を置こうとしているのが見える青年
自分より少し若い位か、と結は思案する
「それじゃ、俺たちはこれで」
青年が立ち去ろうとしたその時だ

「梨沢! ルイウや!」
真苅の声で二人はそちらを見る
そこらを歩いている害のないルイウならよかったが、生憎向こうは敵意むき出しである
梨沢と呼ばれた男は舌打ちした
「逃げてやろうと思ったのについてきやがったか……」

「なぁ、お前。結っつったか」
いきなり自分の名前を呼ばれて結は驚いて青年を見る
「ちょっとだけ協力してくれねぇか。あのルイウをぶっとばしたら、後で事務所で紅茶でも出してやる」
「あ、ああ」
結は荷物を置くと、ボードを展開した
それを見て青年も透明な大盾を構える

先に突っ込んだのは結だった
すさまじいスピードでルイウを翻弄する
まけじとルイウが飛び上がったのを見計らい、すぐ陰に潜んでいた青年が盾で突き飛ばした

転がりながらもブレーキをかけたルイウは今度は青年に狙いを定める
とびかかるのを青年は的確にいなし、不意に結の方を見た
「あとは任せた」
口がそう動いたのを確認し、結は氷の柱を召喚し、ルイウを突き上げた

「やるじゃねぇか。白の言ってた通りだな」
ルイウが消滅していくのを確認しながら青年は言った
「お前、白と知り合いなのか?」
「知り合いの知り合いだ。何度か顔は合わせたことがある。お前のことも、話には聞いていた」
「あんた、一体?」

「梨沢英介。チーム「ヘテロ」の新人で、この近くで探偵事務所を開いている。よろしく」
青年・英介は手を差し出した
結はその手を握り返した