バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

ハシモトととある再会(1万人突破記念)

「あれ、そこの人」
不意にそう声をかけられた気がして、ハシモトは振り向いた
アイラには及ばないが、大柄な男がそこに立っていた
「やっぱり、ハシモトじゃねぇか。久しぶり」
「『首割り』か」

「お前、確か遠くに越したんじゃなかったか?」
「最近、またミカガミに戻ってきたんだ。彼女がどうしても故郷で家族を作りたいって譲らなかったからな」
『首割り』と呼ばれた男は頭をかきながら言う
口調はぶっきらぼうだが人懐こい笑顔は安心感すら与え、ハシモトが知る限りでも人気が高い

しかし、彼は二つ名を持つ殺人鬼の一人である
その残忍さ故に『首割り』などという二つ名を張り付けられた
ところがこの男。実はあまりにも
「『弁護士』は元気にしてるか?」
親切な男だった



「で、どうよ、最近の仕事は」
近くのカフェに立ち寄った二人は、互いにコーヒーを頼んで一息ついていた
『首割り』はにこにこと笑いながら話を続ける
カルミアと対峙してる話はむこうで聞いたぜ。またとんでもない相手だな」

「まァ、今は仲間も増えたし、そろそろ切り込みにいこうかと思ってるところだ」
「そっか」
ハシモトは察していた。『首割り』は分かっている。分かっているうえで黙っている
こちらに援軍が必要なことは見透かされている

「……『首割り』」
「ん?」
「今回の件。多分お前の力も必要になると思う。必要な報酬は払うから、頼まれてくれないか」
「ああ、いいぞ」
あまりにもあっさり承諾したので、ハシモトは滑りそうになる
「あ、あァ、助かる」

「で、手取りはいくらいるんだ? 2億じゃ安いか」
バイスを立ち上げて計算をするハシモトに、『首割り』は言った
「いらない」
「ほー、いらない……って、はァ!?」

「ハシモトにはいつも世話になってるしな。稼ぎは少ないけど、その方が彼女に怪しまれないし」
「でも、」というハシモトに、『首割り』は付け加えた
「それに、カルミアともなれば「断罪」のしがいがありそうだからな」

ああ、忘れていた、と、ハシモトは思う
曲がりなりにも彼もまた殺人鬼。意図さえ合えば誰でも殺してしまう
「必ず仕留めてやるよ。俺の二つ名と、心器にかけて」
『首割り』はにやりと笑った
ハシモトはふっと息を吐き、またにやりと笑い返した