バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

22 闇夜の独白

「『薬師』が死んだらしいなぁ」
その言葉に『猿回し』は手を止める
「あいつが悪い。勝手な真似をしたのはあいつだ
「ごもっとも。でも、優秀な殺人鬼がいなくなったのは事実だ」

『匠』は『猿回し』の背に立つ
片手で小型ののこぎりを弄び、口角は上がっている
「そろそろゴーサインがほしいなぁとは俺も思ってるんだよ。けどさ、お堅い頭のお偉いさんが許してくれないんだろう?」
「……」

『猿回し』は椅子をまわして『匠』の方を向いた
「挑発か?」
「そりゃ、ここまで動けないとなりゃあね」
「お前に関してはこちらも信頼してるんでね。好きに動くといいさ」
「サンキュー」

『匠』は部屋から出ていこうとする
「待て」
その背に『猿回し』は声をかけた
「……死ぬなよ」
「たりめーだろ」

『匠』がいなくなった部屋で、『猿回し』はふっと息を吐き、左胸に腕を押し当てた
出てきた懐中時計を見ながら彼は言う
「嫌な予感がするんだよな」