バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

真苅苺の優雅な一日(その3)

「あっちゃー、こりゃ派手にやられたねぇ」
自警団と共に現場に向かった真苅と柿本は赤く光るブラウザを展開するスーパーコンピュータを前にしていた
真苅は顔を隠し、いつもの方言を抑えている

「自警団さん、なんとかなりませんか……!」
施設の長が藤塚の手を握って懇願する
藤塚はぐるりと自警団を見回したが、真苅に目を留めた

「ジューゴ、とか言うたな。機械が得意だと鬼才から聞いちょるが、本当がか?」
「むしろ、機械がなければ私は私として始まらないわね」
「なら」
「待ってください、藤塚さん!」
下上が真苅を睨みながら言った

「あんな異端に任せずとも、我々自警団でなんとか」
「下上。わしらじゃ何にもできんのは目に見えている。苦手な分野は得意な奴に任せるのが鉄則じゃ」
「ですが……!」
下上を無視するように藤塚は真苅を見る
その視線を受け取り、真苅はスーパーコンピュータの前に立って構えた
「……いくわよ」

そこに存在していないはずのキーの音が鳴るかの如く、素早い真苅のタッチが部屋の中に響く
赤く光っていたブラウザが、元の青さを取り戻していく
「嘘だろう。パスワードすらでたらめに書き換えられているはずなのに」
誰かがそう呟いた。柿本はそれにこたえる
「心配はいらない。あれが、彼女の能力だから」

彼女の能力……「異端」。それは「機械語を話すこと」
それは何も、ただ機械に強いだけではない
彼女は文字通り機械と「会話」する。そのうえで最善の方法をとっていく
ある時は仲のいい女友達とお喋りを楽しむように
ある時は瀕死の患者を励ますように

「……はい、これでいいでしょ」
数分もしないうちに部屋は元の展望を取り戻していた
お礼を何度も言う職員たちに手を振り、真っ先に真苅は部屋を抜け出す
ジューゴを名乗るのは苦しかったが、狙われるのを防ぐためだった



一日の出来事を端末に日記として書き込んだ後、真苅はベッドに入った
明日は栗原を連れて買い物に出よう。そう思いながら眠りについた