バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

25 『匠』

「おっと!」
弾丸をかわしてバランスを崩す『匠』
草香は追撃を試みるが、のこぎりをついて『匠』は体勢を立て直して弾丸をはじいた

「貴方、何のためにカルミアの肩をもつのです」
「それが刺激的なんだよ」
「刺激的……?」
怪訝そうな顔で草香は言う。あのカルミアにいることが、そんなにも楽しいのか

「俺はカルミアに勤める一般的な社員だった。だが、在るときふとした拍子に、カルミアが裏世界を束ねている事を知った」
『匠』は面白い話をするかのように言葉を並べる
「当然捕まって拷問だね。でも、それで屈する俺じゃなかった。むしろわくわくした。こんなにも刺激的なことを、この会社はしていたのかってね」

「だから、カルミアの肩をもつようになった、と?」
草香の声に『匠』は頷いて見せた
「そうさ、俺は狂ってる。けどな、こうしてのこぎりを振るうようになって、新しい楽しみを知ったんだ」

『匠』はのこぎりを持って蹴りだした
「だから、お前も俺の「玩具」なんだよ!」
草香は指先から散弾銃のように弾を乱射するが、『匠』は弾をはじいて迫ってくる

「……あっ」
草香は呟いた。装填していた弾が切れたのだ
「ぶっ壊れな、機械女!」
『匠』がのこぎりを振り上げた瞬間だった

降り下ろされようとしていたのこぎりが、力なくその場に落とされた
「がっ……?」
『匠』は脇腹を抑えて後退する
そこからだくだくと血が溢れていた
草香の左手に、一回り大きな砲門が顔を見せていた

「私は誰かを殺すことはしません。ですが」
草香はのこぎりをとりあげ、踵を返した
「次また殺しにきたら、命はないものと思ってください」
立ち去る草香を見上げながら、『匠』は舌打ちをひとつして気を失った