バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

ツキトの災難

大黒屋の研究所はやや山間の奥まったところにある
通い助手であるツキトはこの山を登らねばならないのだが、ルイウに襲われたり道に迷ったりと、この山にいい思い出がない
僅かに髪を手でかき回しながら、ツキトは山を登る

「……あれ?」
ツキトは顔を上げて後ろを振り返った
見知った背中がそこにあったので、思わず呼び止める
「信行さん」
「……おや、ツキト君」

「今日は一人なんですね」
ツキトの問いかけに信行は笑った
「秀忠は別の用事さ。僕は研究の資材を届けに来ただけ」
研究の資材、ときいてツキトは小さく悲鳴を上げるが、すぐに口を押えて「違うんです」と首を振った

「大黒屋に用事なら少し待った方がいいとおもうよ。資材の整理に追われてて……おっと」
そこまで言って信行は小型ナイフを取り出した
ツキトも、自分がルイウの群れに囲まれているのに気が付いた
「どどど、どうしましょう!」

「ツキト君は初心者だったよね。だったら、頭を下げてじっとしてて」
ナイフを手の中でもてあそびながら信行は言う
イノシシのようなルイウが一匹飛び出してきた
その牙は信行を貫……かなかった
小型ナイフから伸びる透明の結晶が、ルイウを逆に貫き、灰にしていた

ビキビキと音を立てて小型のナイフが大鎌に変わる
それから先はあっというまだった
作り出された鎌が次々とルイウを襲い、群れを消滅させていく
ツキトは間を縫うように逃げ出していた

息切れをするツキトを見ながら大黒屋は驚いた様子で駆け寄った
「どうした、ツキト!」
「ルイウの群れに襲われて……。信行さんに助けてもらいました」
「……そうか」
大黒屋はツキトを座らせ、紅茶の用意を始めた