バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

31 『弁護士』の姉(『猿回し』下)

『猿回し』の心器には秘密があった
「戒律」を示す彼の時計は、なんと彼以外の時間を止めることができるのである
いくら抵抗しようと止まった時の中では無意味
『猿回し』はそれを誇りに思っていた

故に挑んでしまったのだ
それを破る術を持つ者に

「俺に勝つつもりか? やめておいた方がいいぜ。お前の首が飛ぶ」
『猿回し』は嘲笑して言う
フブキは彼を睨みつけたまま返した
「……私には見えている」
「自分の死が、か?」

「今まで散々弟に守ってもらったんだろうが。その命、無駄にする気か?」
「いいえ、この命は、『弁護士』のために使うの!」
『猿回し』はにやりと笑い、懐中時計を押した

時が止まる。彼は悠然とフブキに近づく
「あばよ、オネエチャン」
『猿回し』がナイフを振り上げたその時だ

突如鳴り響く金属音
『猿回し』の手からナイフが飛び、遠くへと空をかく
何が起こった。そう考える間もなく、『猿回し』自身も腹に衝撃を受けてかがみこんだ

見上げると、そこにいたのはフブキ其の人
時間が止まっているはずのその空間で、彼女は彼に向かって歩き出した
「な、何でお前……」
「全部、見えていたわ。貴方が『折り鶴』や『仕立て屋』に何をしていたのか」
そして、フブキは言う
「私は『弁護士』の姉よ?」

『猿回し』はそこで合点がいった
今までのは時間を止めていたわけではない。「時間が遅くなっていた」のである
そして、周りをスローに見ることのできるフブキだけは、止まった時の中で彼同様に動くことができたのだ
時が戻る。かがみこんでいた『猿回し』の首が、『折り鶴』によって折られた
抵抗する術は、もう持ち合わせていなかった