バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

36 ゴーサイン

「それでは、今日は遅くなりますので」
ルソーはいつものように口上を述べて立ち上がった
「アイラさん、準備はできてますか」
「今更だな。お前のためのお膳立てってやつだ」
「語彙力、ついたんじゃないですか?」
「うるせぇやい」

「ルソー」
フブキと草香が玄関まで見送りにきた
「草香さん、姉さんをよろしくお願いします」
「わかりました」

「ルソー、今日はハンバーグ作って待ってるからね」
フブキはいつもの笑顔で弟を見送ろうとしている
二度と帰ってこないかもしれないのは、彼女が一番分かっていた
だから、あえて笑顔で見送ろうとしていたのである

「姉さん、行って参ります」
それはルソーも分かっていた
勝てるか分からない相手を目の前にどこまでやれるか、不安はあった
しかし、踵を返そうとするルソーの肩をとらえ、フブキは後ろからルソーを抱き締めた
「そういうときは、「行ってきます」でしょ?」

ルソーに感情があれば、泣いていたかもしれない
彼は無表情のまま、フブキの腕を掴んだ
温もりをそこに残したかったかのように

ハシモトのゴーサインまで、あと一時間