バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

41 幸せの話

「ミツミさん、ルソーは……?」
不安そうなフブキの声に、ミツミは首を振った
「一命はとりとめた。けど、いつ目覚めるか分からない」
「そう、ですか……」

無理もなかった
背中に大きな傷を負い、失血で意識が朦朧となろうとも、最後には「加速」し、カルミアを仕留めた
生きているだけで奇跡なのだ
ベッドで呼吸音もなく眠り続けるルソーに、フブキは近寄った



「『弁護士』はよくやってくれたさ」
ふっと煙を吐きながらハシモトは言う
「姉の、家族の復讐を、今度は本当の意味で成し遂げた。これはもう褒めるしかない」
「随分と過大評価するんだな」
「そういうお前だって、本心では感心したはずだ」

煙草の吸殻を地面に落とし、踏みつけて火を消すハシモト
「それで、お前はこれからどうするつもりだよ」
ハシモトはずっと後ろに立っていた『匠』に訊いた
「俺は面白ければいいんだ。カルミアが潰れた今、一番面白そうなのはここしかねぇ」
「ヒヒッ、そうかい。俺は歓迎するが、監視の目は常に生き届いていることを忘れるな」

ハシモトはぽんと『匠』の肩に手を置いた
「部屋は貸してやる。仕事の斡旋もしてやろう。金は払えよ」
「はいはい」
『匠』は笑いながらハシモトの手を取った
「よろしくな、新しいブローカーさんよ」



「……覚えてる、ルソー?」
フブキはルソーの手を取って言う
「昔、お父さんとお母さんが殺されて、私が気絶した時。目を覚ますと、あんたは柄にもなく大声で泣いたわ。それだけ私は愛されてたって、知った」
ルソーは目を覚まさない

「でもね、ルソー。愛しているのはあなただけじゃないのよ」
フブキはルソーの手を包み込むように握った
「私だって、貴方と同じくらい貴方を愛してるわ。だから、目を覚まして。お願い」
既に目に涙をためながら、フブキは言う
それがすっと頬を伝い、ぽたりと落ちた時だった

ピクリ
僅かにルソーの手が動いた
フブキはルソーを見る
そこには僅かに目を開いたルソーがいた

「ルソー……!」
「……姉さん」
フブキはボロボロと泣き出した
それにつられるかのようにルソーの目にも涙がしたる
「よかった、生きてて」
それは互いに思った感情であった