バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

9 光とシャボン玉

笛利は廃工場でシャボン玉を吹いていた
暖められた空気によってシャボン玉は上へと昇っていく
しかし、屋根を超えるあたりで割れてしまっていた

「んっ」
そんな声が聞こえ、笛利は入り口を見る
杖をついた高田がそこにいた
「シャボン玉……。流哉の?」
「……ああ」

「流哉も子供みたいなところあるんだね」
「うるせぇなぁ」
そう言いつつも笛利はシャボン玉を吹くのをやめない
「割れる音は聞こえるんだけど、やっぱり見えないなぁ」

高田は目がよくない
光をかろうじて認識できる程度の視力しかなく、普段は周りを「聞いて」判断している

「この風景、「見て」みたかったなぁ」
少し残念そうに高田は呟いた

笛利は毎度思うのである
どれだけ頑張ろうとも、彼の「目」にはなれない
それが悔しくもあり、諦めてもいた

しかし
「「見せて」やるよ、もっとすごいものを」
だから何だ
高田には高田のいいところがある
俺はそれを伸ばせばいい

「昼飯、できてるらしい」
「わーい」
今のまま平和が続けばいいのに
そんなことを思う俺は、罪だろうか