バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

10 誘拐事件と医療事業

その日は豪雨だった
むき出しの床に打ち付けられる雨の音は地下にいた七人の元へと届く
パイプを流れる轟々といった音も聞こえる中、各々好きなことをして雨が止むのを待っていた

「なぁ、山さん」
九十九が赤城に近づく
「例の黒い物体、確かに見たけど、あれがこんな災害を起こしているなんてまだ信じられないんだが」

「それは俺も一緒だよ」
予想外の返答が返ってきて九十九はかたまる
「あいつらは巻き込まれただけかもしれない。でも、この星に害を成しているのは事実だ」
「奴を倒して手に入ったのはほんの小さな機械だけ。信じていいのかわからねぇ」

「……私さ、未だに覚えてるんだ、あのこと」
九十九の言葉を、赤城は瞬時に判断した
「お前の誘拐事件か」
「そう」

10年以上前になる
当時幼かった九十九は誘拐犯にさらわれたことがあった
それを救うために赤城が単身アジトに乗り込んできたのである
結局のところ、雷雨が功を奏し、九十九は無事逃げ出すことができた

「人間ってのは嫌いだ。自分勝手で、都合が悪いとすぐ逃げ出す」
すねたように九十九は言う
「……だったら何で、医療系の道に進んだんだ?」
赤城の言葉に図星を刺され、九十九はかたまる

「少しづつ、信用しているんじゃないか、人間の事」
「……うるっせぇ」
遠くでゴロゴロと音がした