バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

6 筆と紙

遠賀川の周りに巻物のような長い紙が現れ、彼を取り囲んだ
頭上には筆が回っている
「第一形態は初めて見る形だった……。気をつけなさい、小春ちゃん
「わかりました」

春日は目の前で手を組み、叫んだ
「「「慈愛」快癒の仮面」!」
彼女の周りが光り、不思議に浮く錠剤が辺りを取り囲んだ。その背には、メスでできた翼
春日はその翼を大きく広げ、遠賀川にメスを放った

放たれたメスは遠賀川をすり抜け、紙に穴をあけていく
だが、その紙は自然と元の形を取り戻す
「……」
遠賀川が顔を上げた
その目に正気は宿っていない
「暁君! 聞こえないの!?」
黒波が叫ぶが、彼は無視して腕をあげた

頭上に回っていた筆が更に回転を増す
同時に何も書かれていなかった紙に文字の列が現れた
「一体、何を……」
黒波が言ったその時、遠賀川は腕を振るった

彼の周りに現れたのは、先ほど春日が飛ばしていたメスとおなじもの
彼はそれを二人に放ったのだ
「下がって、小春さん!」
黒波の声に下がる小春

前に出た黒波は手を重ねて叫んだ
「「「過護」防衛の仮面」!」
黒波の目の前に大きな盾が現れ、メスをはじいた
その盾を持ったまま黒波は遠賀川との距離を詰める

「ごめんね、暁君!」
黒波はそういうと、盾のへりで遠賀川の顎を思い切り突き上げた
大きく弾きとばされ、遠賀川は地面に落ちる
文字列が増えたのち、筆と紙は跡形もなく消え去った