バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

10 らしさ

「……ただいま」
水城は暗い声でそういうと、玄関から上がってきた
「おかえり」
笑いながら母はこちらを見たが、水城は無視して上の階へと上がる

鞄をベッドに投げ、身も投げた
見慣れた天井が視界に広がる
「……着替えなきゃ」
水城はしぶしぶ起き上がると、部屋着に袖を通した

ふと全身鏡に映る自分を見る
ピンク色の上着。似合わない。嫌い
そう言ったところで両親に叱られるだけだ

男になりたかった
昔はそう我儘を言っては殴られ叱られた
今更反抗する気も失せた

だから、学校ではこっそり男の姿をするのだ
スカートの下にジャージを穿いて、バンダナで長い髪を隠して
生徒指導には引っかからないラインで、水城は男になっていた
だから演劇部を選んだのだ。自分が男になれるから

「女らしくなんて、恥ずかしいに決まってんだろ……」
水城は目を隠した