バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

12 通りがかり

「……」
今日は星がきれいだと聞いた
それだけで雑踏の中を力強く歩くことができた
「不協和音」に耐えながら歩くのはきついものがあったが

「……?」
ふと、聞いたことある音がした気がして横を見る
雑踏を無理矢理裂いて走るそれは見たことのある姿で
見たことのないものを纏って走る彼女を見、遠賀川は急いで後を追った

学校の前まで来ると、人は少なくなっていった
遠賀川はそれを見計らい、彼女に声をかけた
「水城」
「!」
水城は止まって振り返る
「暁……」

「そのナイフ、なんだ?」
遠賀川にそう言われて水城も自分のまわりをまわるナイフに気づく
でも、それ以上に、彼女には重要なことがあった

遠賀川。俺、男じゃおかしいか?」
「水城……?」
「俺はずっと男になりたくて、でもしがらみのせいでなれなくて。もう、どうすればいいか分かんねぇんだ」
遠賀川は気づいた
彼女から、「不協和音」が響きだしてることを

「もう、俺……」
ナイフに罅が入る
よからぬ事態を感じた遠賀川は距離を取った
「どうすればいいか分かんねぇよ!!」

強い光が、彼女から放たれた
しかしその眩しさのなかでも遠賀川は見ていた
彼女の体が、変化していく
太く、長く、そして強く

光が収まった時、遠賀川は見た
金色の毛に染まる、巨大な狼の姿を